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退屈は嫌いか?

難解かつ危険に満ちた話題作「JOKER」感想・レビュー

※前半はネタバレなしでお送りします

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私がここ数年見た中でも衝撃的かつ難解な作品

 

アメリカの出版社・DCコミックスの代表的な作品『バットマン』シリーズに登場する悪のカリスマの誕生に焦点を当てた映画『ジョーカー』が現在、日本を含む「世界66カ国」でナンバーワンを達成する大ヒットを記録。世界的な社会現象となっている。

作品としてはスピンオフではあるが、ジョーカーというDCの魅力的なキャラクターをここまでの内容でよく許可したなと感心してしまいます。

確かに彼はジョーカーになるまでの物語として非常に理解できる内容ではあるのですが、少しダークナイトのそれとは違うような「人間味」あふれる描かれ方をしています。裏を返せば、予告トレーラーなどを見れば分かるとおりアクション満載のクールな悪役に期待して鑑賞すると肩透かしを喰らうかもしれません。(そもそも時系列的には古い)

 

 

 

 

 

【ネタバレなし】サラッと感想

今作はバットマンシリーズの悪役であるジョーカーが孤独な男から悪へ変貌していく。というコピーで言われている通り、架空のスーパーヴィラン誕生秘話的なお話です。

バットマンという作品を知っていないと一部「ん?」となったりすることがあると思うので、時間に余裕のある方は視聴をお勧めします。

一つだけいうのであれば、富豪であるウェイン家の御子息は後のバットマン(ブルース・ ウェイン)であるということは知っておいて損はないです。

 

作中を見ていて思ったのは、作品全体として余白が多いこと、ホアキン・フェニックスの役者魂が鮮烈なくらい感じられたこと、そして何よりも良い意味で現代的ではないと思いました。

 

★作品全体で余白が多い

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内容的には1時間半でも伝わりそうだ

見ていて時間配分的な問題や、演出の面で見ても余白が非常に多い。これはあまり映画を見ない人でも気づくとは思うが、作中で沈黙や移動だけのシーンや同じことをしているシーンが長く続いたりする。

もちろんこれは釈稼ぎではなく、しっかりとした理由があるのだろう。余白を増やすことで作品全体がゆっくりと流れる。悪役への没入感は難しい(そもそも最初は悪ではなくただの人間である)

 1秒1秒が重い、見ていて苦しくなる時間ほど長く感じられるように作られているように感じられる。もちろん今作はアクション映画ではないために、ハイテンポでスリリングに展開する必要はないのだが、静と動を使った映画の中でこれほどまでに静を大きく活かしている映画を僕は見たことがないような気さえしてきてしまう。

 

どうかゆっくり流れるシーンではアーサーの表情や微妙な声、動きの違いにも注目してほしい、声にならない感情のようなものが聞こえてくる。

 

 

★ホアキンフェニックスに脱帽! 

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彼は撮影中にあまりにも感情移入しすぎて、スタッフにブチギレて放送禁止用語を連発する映像が公開され話題になっていますが、今回の役作りは本当に圧巻の一言でした。

この作品が大きく評価される要因の一つに間違いなく彼の役者魂の強さは加味されるでしょう。

 

というのも、出演が決定しているにもかかわらず監督にオーディションをしてくれと頼んだり、撮影前には“病的なダイエット”に取り組んだりと、真剣にジョーカーというキャラクターに向き合っている点、そして諸所の動作や表情が非常にジョーカーという人物像を際立たせていると思います。

 

アメコミの世界のキャラクターという点と本作特有のジョーカーになる前の人間としての人間味、最高にダークでクールな演技はなんといっても見どころの一つです(見所も何も、見ていれば分かると思うが)

 

 

 

★良い意味で現代的ではない斬新かつダーティー

headlines.yahoo.co.jp

 

本映画ではブラックジョークがいくつか登場する、現在のアメリカ及び世界情勢を皮肉に謳う部分も見て取れた。

ポリコレが意識されている世の中、最近の作品だとディズニーの「アラジン」などはアニメの方とジャスミンの描かれ方が少し異なっていたり、007が黒人女性になったりと世間の抑圧αを受けやすい映画業界だが、この映画は違う。

ジョーカーの監督は過去作ではハングオーバー! 等のコメディ映画を作ってきたのもあってか、今作は笑いにくいコメディ映画に仕上がっている(そもそも笑っているのはジョーカーのみだが)

 

障害や貧困などのセンシティブな話題にジョーカーというキャラクターなりの切り口で入っている。極め付けは

I hope my death makes more cents (sense) than my life.

 

 

 

 

 

【ネタバレあり】狂っているのは私かそれとも世界か

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新体験:コメディ鬱映画

ゴッサムシティの治安が悪すぎることを除けば、かなり現実に近い都市で貧困や社会に声を上げることのできない抑圧された人々を中心として反旗を翻すラストシーンが印象的ですが、この映画はある意味そのシーンでエンディングであれば評価は少し変わったと思います。

問題は最後の最後のシーン、「良いジョークを思いついた」とアーカム精神病院での一言、そしてその後赤い足跡と颯爽と廊下を歩く男。このシーンで一気に難易度が跳ね上がった印象があります。

 

そもそも、この映画には現実と虚構が入り混じっているのに気づいた人は多いでしょう。ジョーカー自身が現実と虚構が分からなくなっているので、アーサーに感情移入すればするほど、「あれ?」となることがあるかもしれません。(そもそも母親も妄想癖があった)

ある人は「アーサーに起きた良いことは全て妄想なんじゃ無いか?」なんてことを言う人もいます。最後の病室のシーンはブラックアウト前全てまでのシーンを全て含めて「ジョーク」としたのか、全てが終わった後の次の一手を思い浮かべての「ジョーク」なのか? 明確には書かれていないのがニクイですね。

 

また赤い足跡、これはカウンセラーの女性を殺害した血の跡と言う考察(なぜ?)や本物のジョーカーが出ていたシーンはここだけなのでは無いか? と言う考察(もともと生い立ちが分からないのがジョーカー)

→確かに最後の後ろ姿はアーサーのジョーカーの時とは違う動きをしている気がします。

諸説は色々あれど、こういったぼやかされた悪役というのがジョーカーという人間像を魅力的にしている要素だと思います。

 

 

 

間違いなく社会が生み出した悪という存在であったジョーカー。その描かれ方やアメコミファンタジーではなくヒューマンドラマとしての性質が強い一作でした。

 

見る人の賛否を呼ぶ映画になっていますが、見た後に数日間は残響が残るタイプの映画です。

こういう映画はだいたい良い映画だと思っています。面白く無い映画は見たら内容を数日後にはすっかり忘れていますし、途中で眠たくなったり、エンディングロールで早く出たいとすら思ってしまいます。今作はそれとは真反対の映画。

 

今の所今年見た洋画の中ではトップです。